大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1334号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の提出援用認否は、控訴人が「不動産の売買予約に基きその売買が完結されたときは売買の効力が生じ、その目的たる財産権は相手方に移転するのであつて、売買完結後には予約による相手方の財産権の移転請求権は存続しないのであるから、売買予約の仮登記の効力も当然消滅するといわねばならない。通常の売買における順位保全のためにする仮登記の効力と、売買予約に基く仮登記の効力とを同一視するのは誤りである。」と述べた。

証拠(省略)

理由

一  成立に争いのない甲第一号証の七、第二号証の二と原審における証人石川公八および被控訴会社代表者の各尋問の結果ならびにこれにより真正に成立したと認められる甲第一号証の一、第二号証の一(ただし、官署作成部分については成立に争いがない)によれば、請求原因第一、三項の事実を認めることができ、同第二項の事実は当事者間に争いがない。

二  控訴人は本件準消費貸借および仮登記が通謀虚偽表示によるものであると主張するので案ずるに、成立に争いのない乙第一号証と当審における控訴会社代表者の尋問結果およびこれにより真正に成立したと認められる乙第二号証によれば、被控訴会社は昭和三九年五月一九日に設立されたもので当初の資本の額が三〇〇万円にすぎず必ずしも資金的に余力があつたとはいえないことが推認できるけれども、前記証人石川公八および被控訴会社代表者の各尋問結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第一号証の三ないし六によれば被控訴会社は他から融資を受けたその金員をもつて石川公八の債権者らに対し石川に代つて弁済するなどして現実に同人に対する債権を取得しこれに基いて本件準消費貸借が真正に成立したものであることが認められ、他に控訴人の抗弁事実を証するに足る証拠はない。もつとも、前記石川証人は、被控訴人に対する債務は約定の期限にかかわらず徐々に返済すればよく未だ本件建物を被控訴人に譲渡してしまつたとは考えていない旨供述しているが、その供述にもあるとおりこれは同証人の主観的な希望にすぎないと認められるから、これをもつて右抗弁事実認定の資料に供することはできない。

三  控訴人は売買予約に基き売買が完結されたときは財産権は相手方に移転しその後は財産権の移転請求権は存続しないというが、右のように売買の完結により財産権が相手方に移転するのであるからこそ相手方はその仮登記に基く本登記を請求しうるに至るのであつて、売買完結後は仮登記の効力が消滅するとする控訴人の主張はとうてい採用できない。また、本件の売買完結による所有権の移転が控訴人の仮差押に対抗できないとの控訴人の主張が採用できないことも原判決の理由に説示してあるとおりである。

四  よつて、被控訴人の請求は認容すべきものであつて、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例